多すぎる『十六片』の偽物

 皆様も良くご存じのように、文政南鐐一朱銀(十六片)は、古金銀の中では偽物の常連上位にランクされます。偽物と言っても、収集家を騙すために製作された現代物ではなく、当時物がほとんどです。ですから、古色のついた味のあるものも多いので、初心者は言うまでもなく、業者でも平気(?)で偽物を販売しています。いわゆる有名・大手オークションでもしかり、文政南鐐一朱銀が5枚出品されていたら1枚は偽物ではないか、と思えるほどです。PCGSスラブ入りも偽物だらけです。十六片ほどではありませんが、文政南鐐二朱銀の偽物も散見されます。~コインが販売しているから大丈夫、~コインオークションだから心配ない、と思わず、実物をしっかり見て、書体を勉強することが必要です。

 十六片の書体は基本的に文政南鐐二朱銀から受け継いだ書体です。書体には銀座が定めた約束事があり、その約束事は原則守られています。もちろん、当時の極印は手作りですから、多少の差異は出ます。これがある意味『手替わり』というものですが、書体の筆づかいや勢いにはやはり共通したものがしっかりと存在します。これらに反するものはまず偽物ですから、基本書体をしっかり勉強すれば、ほとんどの偽物は見破れるものです。

 例えば、背、つまり『銀座常是』の面を見て下さい。『常』の第四画と第五画、第六画と第七画が開いている「上二開き常」の時だけ、『銀』の金編が「正金」で、それ以外はすべて「欠金」と決まっています。「欠金」と言っても、金字の縦棒よりも極わずか右に突き出ているものもありますが、基本「欠金」です。ところが、多くの偽物が「正金」なのです。ここを確認するだけでも、一定数の偽物が見破れるわけです。

 私が前から不思議に思っているのは、文政南鐐二朱銀と文政南鐐一朱銀の当時の偽物は「別座」とは言わないことです。天保一分銀や安政一分銀の「別座」とは、当時流通していた藩鋳とされる偽物のことですから、当時物の十六片も「別座」と言ってもよさそうなのですが。まあ、一分銀ほど大量に、また組織的に密造されたわけではない、ということなのかもしれません。