天保一分銀 表T型  (その4)

 天保一分銀 表T型は表P型に次いで存在数が多く、私の実感では表Z型とほぼ同じくらいです。つまり、天保一分銀は表P、T、Zの3つの型で、その大部分を占めているわけです。表T型の裏は、l、o、q、r、s、t の6種類があるとされていますが、Tqに関しては若干の疑義がありますので後述いたします。

 表T型には、明らかな手替わりが存在します。それは"大字"と"小字"で、3:1で"大字"が多いです。"小字"の中には、本当に小さな書体のものもありますから、是非探してみて下さい。「銀」字には「へ山銀」と「人銀」が存在しますが、微妙なものも多く、あまり気にしなくてもよいのではないかと思います。

 一番多いのはTrとTsで、これを2000円と査定すると、Toが2100円でここまでは完全に同じランクです。Ttはほとんどの手引書でTr、Ts、Toと同ランクになっていますが、明らかに少なく、私の査定では2500円です。TlはSlよりもやや少ないと思いますが、書体に人気がないので3500円という評価です。Tlは状態の良いものが少なく、未使用のTlは難獲品です。

 Tqは天保一分銀の中でも最も希少な組み合わせです。Rsと同ランクとなっていますが、Tqのほうが少ないと思います。私もTqの売り物を何度か目にしました。書体が全く違う別座はさておき、本座(幕府の銀座で正式に作られた一分銀)とされているTq (組合鑑定書がついたものもあります) も見ましたが、やっぱり違和感があります。表Tの書体と裏qの書体の約束事はあっているのですが、何度見ても"しっくり"きません。「定」刻印にも違いがあるように見えます。しかし、こんなことくらい浅井氏をはじめとする多くの先生方がわからないはずがありません。その上でTqを本座とされているのですから、私などが偉そうなことは言えないのですが、何となく別座ではないか?という疑いは消えません。一分銀や古金銀に詳しい私の知り合いの中にも、本座のTqは存在しない、とも言っておられる方がいます。ただ、本座ではなくても、書体の約束事を満たしているTqが極めて希少であることは間違いないと思います。